がんの治療中に高血圧の症状が出ることがあります。これは、がん治療に使われるお薬の副作用による場合もありますし、体の機能が低下することから起こる場合などがあります。どちらの場合でも高血圧は身体に悪影響を与えますので、しっかりと対処することが重要になります。
上記のように、がん治療中の高血圧は、薬の副作用の場合があります。例えば、血管新生阻害薬やマルチキナーゼ阻害薬では高血圧が高頻度に認められます。血管新生阻害薬やマルチキナーゼ阻害薬は、癌細胞の血管新生を阻害することで抗腫瘍効果を発揮するものです。しかし、これらの薬剤は血管を収縮させる作用も有するため、高血圧を引き起こすことがあるのです。これらの薬剤は多くの場合は進行再発時の治療として用いられています。高血圧による随伴症状や臓器障害を予防するためには、適正な血圧管理を行う必要があります。
がん治療のお薬がどのようにして高血圧を起こすのか、確かなメカニズムはまだ解明されていません。ただ、多くの薬剤がVEGF(遺伝子発現の誘導、血管透過性亢進の制御、細胞増殖の促進、細胞走化性の誘導、細胞の維持などを因子)を阻害する作用を有しています。そのため、体内の一酸化窒素が低下して、血管の抵抗性が増加して高血圧が起こるのではないかと考えられています。また、薬剤で腎臓が悪くなることでも、水分や塩分の排出が十分にできなくなり、血液量が増加して血圧が上がります。
副作用で高血圧の可能性がある薬剤には、同じ種類の薬でも個々に違いがあります。服用すると、急激に血圧が上昇する薬と、徐々に上昇する薬がありますので、自分が服用している薬はどちらのタイプなのか把握しておくことも大切です。
がん患者の血圧は、国内における正常域血圧の範囲内でも心不全などの心血管疾患の発症リスクが上昇し、さらに血圧が高くなるほどリスクも高くなるとの調査結果があります。2022年9月8日に発表された東京大学などの研究グループの報告によると、乳がん、大腸・直腸がん、胃がんの既往がある3万3,991例を対象とした研究で、平均観察期間2.6年の間に、779例で心不全の発症が認められました。米国ガイドラインに準じて分類した正常血圧(収縮期血圧120mmHg未満/拡張期血圧80mmHg未満)と比較した心不全のハザード比は、ステージ1高血圧(130~139mmHg/ 80~89mmHg)が1.24、ステージ2 高血圧(140mmHg以上/ 90mmHg以上)が1.99と血圧が上がるほど上昇しました。また、心不全以外の心血管疾患(心筋梗塞、狭心症、脳卒中、心房細動)においても、血圧上昇に伴う発症リスクの上昇が認められています。研究グループは、「がん患者においても、適切な血圧コントロールが重要である」と結論づけています。
高血圧は血管や多くの臓器に影響を与え、重大な疾患につながる可能性があります。特にがんを治療中の患者さんは、高血圧による影響を最小限にする必要があります。そのためには、まず、心電図、心臓超音波検査(心エコー)、胸部レントゲン、尿検査、血液検査などの検査を実施して、次のようなポイントをチェックする必要があります。
また、高血圧が臓器に与える影響は以下のようなものがあります。
がん治療を原因とする高血圧の場合でも、治療方法は基本的に通常の高血圧治療と同様になります。まずは運動や食生活など生活習慣の改善をおこない、必要に応じて降圧薬を服用します。主治医の指導をしっかりと守り、血圧をコントロールすることが大切になります。
塩分を取りすぎると、塩分濃度を下げるために体内が水分過多になります。すると、血流量も増加して、血管にかかる圧力が増加、つまり高血圧になります。食塩の摂取量は1日6g未満が目標となります。最初は物足りないかもしれませんが、減塩調味料を使用したり、香辛料や香味野菜を多用することで、徐々に慣れるようにしてください。
肥満だと必ずしも高血圧になるわけではありません。しかし、肥満ではない人と比較して2倍から3倍も高血圧を発症する確率が高まると言われています。肥満度は一般的にBMI(体重(kg)÷身長 (m)2)という数値が使用され、BMI25以上は肥満と診断されます。肥満は高血圧の他、脂質異常や糖尿病にもつながりますので、適切な運動と食生活で防ぐようにしてください。
お酒はリラックス効果もありますが、適量を超えてしまうと高血圧の原因となります。また、それ以外にも脳卒中(脳梗塞や脳出血など)や心筋症、心房細動、夜間睡眠時無呼吸などの原因ともなるのです。お酒の適量は、日本酒ならおおよそ1合、ビールなら中瓶1本、焼酎では半合、ウィスキー・ブランデーではダブルで1杯、ワインではグラス2杯程度と言われています。適度に楽しみましょう。
運動は高血圧を改善することがわかっています。ただ、激しい運動をするのではなく、早歩きやステップ運動 (踏み台昇降運動)、スロージョギング、ランニングのような有酸素・持久性・動的運動がよいとされています。決して無理することなく、軽い運動から徐々に身体を慣らしていくことが大切です。
高血圧だけではなく、身体を健康な状態に保つには食事に気を使うことが大切です。野菜や果物のほか、植物性タンパク質、動物性タンパク質をバランスよく摂取しましょう。また、加工食品やラードなどの飽和脂肪酸が含まれるものは控え、オリーブオイルや魚等に含まれる不飽和脂肪酸を摂るようにしましょう。
喫煙は高血圧だけではなく、心筋梗塞や脳卒中などの危険因子です。多くの有害物質は発がん性もあります。がんを経験している方であれば禁煙をしていると思いますが、自分が吸わなくても受動喫煙に注意する必要があります。