がん治療後に起こる症状のひとつがリンパ浮腫(むくみ)です。リンパ液の流れに影響する箇所を治療するため、リンパ浮腫が起こることは珍しくありません。予防や適切なケアを行うことで症状を軽減できます。ここでは、がん治療におけるリンパ浮腫と対処方法についてまとめました。
リンパ浮腫は、がん治療の副作用や後遺症として起こりやすい症状のひとつです。
がんの転移や再発を防ぐために行われるがん周辺のリンパ節を取り除く手術や放射線療法、薬物療法により、リンパ液の流れが悪くなっておこるのがリンパ浮腫です。むくみと考えると分かりやすいかもしれません。
リンパ浮腫は、手術後だけでなく、10年以上経過してから現れることもあります。年数が経ってからむくみが起きても、手術や治療の後遺症とは気づかない可能性がありますが、放置して重症化すると日常生活にも影響するため、予防と早期発見が大切です。
リンパ浮腫は、根本的な対応が難しいため、長期的なケアが必要となります。しかし、適切なケアによって、日常生活への影響を少なくすることは可能です。リンパ浮腫は、症状としてはむくみですが、通常のむくみとは異なり、がん治療に伴う副作用や後遺症のため、体がむくみやすいと気が付いた場合は、自己判断するのではなく、医療スタッフに相談しましょう。
リンパ浮腫の原因は、リンパ節を取り除く手術や放射線療法、薬物療法によって、リンパ液の流れが滞ることです。リンパ浮腫を生じやすいのは、乳がん、子宮がん、卵巣がん、前立腺がん、皮膚がんなどの治療後と言われています。わきの下のリンパ節を切除した場合はわきの下から腕、婦人科がんや泌尿器科がんでおなかや脚のつけ根のリンパ節を切除した場合は、下腹部や陰部、内ももに症状が生じやすい傾向があります。また放射線療法では、その部位周辺に症状が生じやすいです。
主な症状としては以下のようなものが挙げられます。
リンパ浮腫が重症化すると、皮膚組織の変化が生じます。
リンパ浮腫は、蜂窩織炎と呼ばれる合併症を引き起こすことがあります。傷や虫刺され、免疫力低下などが原因で細菌感染を引き起こすことで発症します。次のような症状が現れることがあります。
リンパ浮腫は、早期発見で適切なケアを行うことが大切です。そのため、治療前にむくむ可能性がある場所の太さを測っておくといいでしょう。リンパ浮腫が起こりやすい部位は上記の通り、リンパ節を切除した箇所に近い部位です。
乳がんならひじの上下、子宮がん・卵巣がんは脚のつけ根から太ももが初期の段階でむくみが生じやすい傾向があります。たとえば乳がんの治療をする際は、腕のつけ根・ひじの上10センチ・ひじの下5センチ・手首あたりを測定しておきましょう。
術後は毎日測定するようにすれば、リンパ浮腫の早期発見につながります。
リンパ浮腫のケアは、日常生活のセルフケアの他に、医師による治療もあります。用手的リンパドレナージは、マッサージや美容目的のリンパドレナージとは異なる医療的マッサージです。専門の医療機関で治療を受けられます。皮膚をやさしくさする手技が特徴。腕や脚に溜まったリンパ液をリンパ節へと誘導して浮腫を取ります。
圧迫療法では、弾性ストッキングや包帯などで皮膚を圧迫し、浮腫を軽減する方法です。症状の箇所に応じて、腕全体を圧迫する弾性スリーブや手の平まで圧迫する弾性グローブ、足用の弾性ストッキングなどがあります。一般的に用いられるのは、症状が軽い場合には弾性着衣、症状が重い場合には弾性包帯です。弾性グローブの中でも、指先まで圧迫するタイプや指先は出すタイプ、弾性ストッキングでも、ひざ下タイプやももまで覆うタイプ、片足のみのタイプなど、様々なタイプがあり、症状に応じて治療します。用手的リンパドレナージと組み合わせて治療すると、リンパ液が溜まるのを防ぐ効果を期待できます。
リンパ浮腫の運動療法は、圧迫療法に運動をプラスします。弾性着衣、弾性包帯などで圧迫した状態で運動する療法です。リンパ管には、血液を全身に送る心臓のようなポンプ機能がありません。そのため、リンパ管周囲の筋肉に圧をかけ、筋肉を動かすことでリンパ液が流れやすくなります。運動療法を行うと、リンパ浮腫の悪化を予防することの他に、腕や脚の運動機能の向上が見込めるため、リンパ浮腫の根本的な改善につながりやすいです。ただし、負担が大きすぎる運動は避けてください。
皮膚に傷がついて細菌が入ることを予防しましょう。肌を清潔に保つことはもちろん、刺激となる洗顔は石鹸を良く泡立てて使います。保湿で乾燥を防ぎ、擦り傷・切り傷・虫刺されに気を付けてください。
皮膚を守るため、家事を行う際はゴム手袋を使用しましょう。長袖の上着や日傘で肌を守ることも大切です。締め付けのないゆったりした服を選び、ヒールの高い靴は避けてください。
脂肪が増えるとリンパ液の流れが悪くなりやすいため、標準体重を維持して太り過ぎないように注意することが大切です。定期的に体重を測り、体重管理をしてください。
入浴自体はリンパ液の流れを促進するために良いことですが、長時間の入浴は負担になります。腕や脚を心臓の位置より高くして寝ることで、就寝中のリンパ液の流れが促進されます。また、重いものを持ったり、激しい運動をしたり、同じ姿勢を長時間続けたりといった体に負担が大きな行動を避けましょう。