がん治療においてよくある症状が吐き気や嘔吐です。これらの症状はどのような原因で起こるのか解説します。また吐き気・嘔吐の治療や対処法についても紹介していますので、これから治療を受ける方、現在治療中の方は参考にしてください。
吐き気や嘔吐を伴うがん治療というと、抗がん剤治療がすぐに思い浮かびます。しかしながらがん治療における吐き気や嘔吐は、他のことが原因となっていたり、複数の原因が重なっていることもあります。
吐き気とは胸がムカムカして吐きそうになること、嘔吐とは実際に胃の中にあるものが逆流して吐き出してしまうことです。がん治療に伴う副作用としては代表的な症状ですが、とても辛い症状であり、吐き気・嘔吐が続けば全身の状態も悪くなってがん治療の継続が難しくなることもあります。
最近では治療内容に応じて吐き気や嘔吐が起こる前に、薬などで予防したり、症状が起きても軽減したり和らげたりすることもできるようになっています。
吐き気は「吐きそう」という感覚で、実際に儚くても胸のむかつきを感じます。食べ物やにおいなどでも誘発され、食事が進まないこともあります。
嘔吐は胃や腸の中にあるものが逆流してきて、口から吐き出してしまいます。嘔吐してしまうと水分はもちろん、カリウム、ナトリウム、塩素といった電解質も体外へ排出されます。そのため全身の倦怠感や口の中の乾燥、頭痛、めまい、けいれん、意識の混濁、血圧の低下、脈拍の上昇、尿量の低下などの症状にも注意が必要です。
がん治療における吐き気や嘔吐の原因を紹介します。
抗がん剤や分子標的薬などの副作用で、吐き気や嘔吐を起こすことがあります。これらの薬がなぜ吐き気や嘔吐を引き起こすかというと、脳の嘔吐中枢を刺激すること、また口や消化管の粘膜といった細胞分裂が活発な部位の正常な細胞に作用することが考えられます。
抗がん剤や分子標的薬などが原因の場合、薬の種類や量により、治療開始から数時間以内に起こったり、24時間以上経ってから起こったりします。
ほとんどの場合、同じ治療方法では同じタイミングで吐き気・嘔吐が起こりますが、治療後数日経ってから起こることもありますので、薬物治療の後はしばらく体調の変化に気をつけましょう。
放射線治療法を行うと、細胞分裂が活発な口の粘膜や消化管などの正常な細胞にも影響を与えることがあります。体のだるさからくる吐き気や嘔吐が起こることがあり、放射線療法後は気をつける必要があります。
吐き気・嘔吐を起こすタイミングは、放射線を照射した当日から数日の間に多く、一過性であるといわれています。
がん治療で手術をする際、麻酔をかけます。吐き気や嘔吐はとくに全身麻酔による手術の後に起こることが多く、麻酔から覚めた後に約30%の人に症状が現れます。
通常は術後1日程度で治まりますが、2〜3日続くことや、手術翌日に発生することもあります。
参照元:丸石製薬株式会社 https://www.maruishi-pharm.co.jp/public/anesthesia/ponv/
一度吐き気や嘔吐の症状を経験すると、その治療に伴う嫌な体験として記憶されます。このように治療と吐き気・嘔吐が不快な記憶となった場合、治療を受ける前でも吐き気が起こることがあります。
また治療に対する不安や緊張など、精神的なことが要因で吐き気や嘔吐が生じることもあります。
吐き気や嘔吐は辛いものです。近年では予防や治療ができるようになってきているので紹介します。
「制吐剤」と呼ばれる薬によって吐き気や嘔吐を和らげる方法です。吐き気や嘔吐の症状をコントロールし、和らげてくれます。
抗がん剤や分子標的薬の種類によって、吐き気や嘔吐の起こりやすさを予測し、症状が起こる前に制吐剤を使って予防します。
また初回治療の際に予防として制吐剤を使うことで、次回治療からの精神的な吐き気・嘔吐の予防にもなります。
放射線療法では照射する部位ごとに吐き気・嘔吐が生じるリスクの高さが分類されています。以前の治療で吐き気・嘔吐が強かった、妊娠時につわりがひどかった、乗り物酔いしやすいなど、症状が出やすい体質もあるため、医療スタッフに確認してもらい適切に対処してもらいましょう。
日常生活での工夫や心がけで、患者自身ができる対処法もあります。まずは身近なところから吐き気や嘔吐を和らげましょう。
吐き気や嘔吐がある場合には、食べられるものだけの食事で構いません。ただし水分や電解質が体外に出ている状態ですので、脱水予防のための水分摂取は心がけてください。
水分補給には経口補水液やスポーツ飲料、ジュースなどが向いています。水分さえ摂れない場合には医療スタッフに相談してください。
またにおいによって吐き気・嘔吐を引き起こすこともあるため、においの強いものを避け、さまざまなにおいが混ざらないよう工夫しましょう。
口の中に不快感があると、吐き気や嘔吐の原因となることがあります。うがいなどを行って口の中を清潔に保つことが大切です。
うがいや歯みがきによって吐き気や嘔吐が起こる場合には、少量の冷水などで少しずつ数回に分けてうがいをしましょう。
吐き気や嘔吐はにおいが刺激となって起こることがあります。そのためにおいの強い化粧品や芳香剤、食品などを身のまわりに置かないように気をつけましょう。
部屋の中にもにおいがこもることがありますので、空気の入れ換えを行い、嘔吐した後は衣類や寝具などはすぐに取り替えてください。
吐き気や嘔吐を感じにくい姿勢を見つけてみましょう。必要に応じてクッションなどで体を支えたり、向きを変えたりしてみてください。
できるだけ横向きの姿勢をとるか、顔だけは横向きにすることで、万一嘔吐した場合の誤えんを防げます。
締め付けがきつい下着や洋服などで、吐き気・嘔吐が生じやすくなります。衣服がきつい場合にはボタンやファスナーをゆるめて、お腹周りを圧迫しないようにしましょう。
吐き気や嘔吐の症状は精神的な原因も大きいものです。家族など周囲の人が不安を取り除く言葉をかけたり、不快でなければ背中をさすったりすることで、症状や不安が軽くなることがあります。